メンバーインタビュー Vol.1 園田 智也さん(ウタゴエ株式会社)


園田智也さんプロフィール

2001年1月、早稲田大学発のベンチャー企業として「うたごえ(現「ウタゴエ」)」を設立。理工学部在学中、音声認識の研究に取り組み、世界初の歌声による曲検索システムを開発。特許を取得した後、学生起業家として創業。博士・情報科学(早稲田大学)

1997年、世界初の歌声による曲検索システム開発
2001~2003年、日本学術振興会特別研究員(文部科学省所管の独立行政法人日本学術振興会認定の日本トップクラスの若手研究者)
2002年、IPA 未踏ソフトウェア創造事業採択
2001年、ウタゴエ株式会社創業
2019年、AI研究開発会社 アステリア ART 合同会社代表就任

1.現在の事業内容について教えてください

― 園田さんは、ウタゴエ株式会社、アステリアART合同会社、二つの組織を経営されていらっしゃいます

機械学習のウタゴエ

園田

園田智也(以下、園田): はい。まず、CASE Shinjukuに拠点を置いているウタゴエは、 機械学習の技術を持つ会社です。今は特に「交通」と「輸送」にフォーカスしたデータセットを中心に法人向けに提供しています。

― ひとことで「交通」「輸送」と言っても、工場の中の輸送からamazonの配達など幅広いですよね

(園田)2011年1月にウタゴエからリリースした「瞬間日記」というサービスがあります。これは個人ユーザーの日記を暗号化してデータベースに持つもので技術的には大差ありません。これから先、私たちが持っている機械学習の技術を、どう役立てるかを考えた時地球の環境問題に向き合い、CO2の削減に繫がる事業に資源を集中したいと思ったんです。そこで、自動デリバリーやフードデリバリーなども含めた 「交通」「輸送」というジャンルの自動化・効率化する方向に舵を切ることにしました。

― ウタゴエさんは創業当初から機械学習の技術を使ったサービスを提供されていますね

園田

そうですね。創業時は音声の認識をやっていました。「ウタゴエ」という社名もそこからきています。

AI技術とセンサー・ロボティクスのアステリアART

園田

アステリアARTは、AI技術とロボティクス、何と言ったらいいか…、機械学習やAIを使ったロボットの開発をしやすくするためのソフトウェアシステムを作っています。

ロボットには大きく分けて「産業用ロボット」と「サービスロボット」の2つがあります。これまでの日本のロボットは、産業用ロボットが市場を占めていました。今、機械学習技術を使ったサービスロボットも割合が増えてきています。お掃除ロボットは分かりやすい例ですし、最近では食器を運ぶロボットやコーヒーを淹れるロボットなどのサービスロボットが出てきています。そういうロボットの開発運用のためのプラットフォームを作っています。今できることはそこまでです。

この事業は成長させて、いずれは自分たちのロボットを世界に出していきたいと考えています。ただ、ハードウェア作りの経験を持っていないので、技術を持っている人たちを集めなければなりません。それには投資が必要ですが、今の資本では間に合わない。資金調達も含めて動いていくという段階です。

CASEで、自作のロボットの写真を見せていただきましたね。とても楽しそうで,園田さんは少年のような方だと(笑)

園田

真面目に勉強しているという程度です。 それは人柄の一面としては、いいエピソードかもしれませんが、社会に対する価値はゼロです。「自分の勉強のためにロボット工作している人」以外の何者でもない。

でも、あれが自分で作れないと駄目なんですよ。自分でちゃんと電圧や電力を計って「なぜこれでは動かないのか」と考えたり、電池を変えて試行錯誤してみるとか。基礎的な理論は学んではいますが、それだけではロボットは動いてくれない。電子回路の感覚は自分で作らないと分からない。だから自分で確かめたくて…。

― アステリアARTを立ち上げられた経緯は?

園田

今から数十年後の世界で何が大きく変わるかを考えた時に、一つはセンサーの数だと気付いたんです。今、車には200個以上センサーが付いてると言われています。今後は、例えば、紙コップにもセンサーが付くと思っています。最初は1個からスタートする。そして、どれくらいまで水を注ぐユーザーが多いのか、この紙コップはどんな温度で使われやすいのか、どのエリアでどのくらいの分量で減っているのか、というようなことを数値化しようと考える人が絶対に出てくる。やがて気が付いたら、一つの紙コップにも数十、数百のセンサーが付くようになる実際にそうなると思います。ペットボトルや紙コップにセンサーが100個付いたら飲食業界は大きく変化するでしょう。

でも、ウタゴエはソフトウェアのチームなので、センサーのノウハウは最初から作るしかなかった。そんな中で、センサーのミドルウェアを作っているアステリア社の方向性と私のやりたいことがマッチした。それでセンサーとAIの会社を作ってセンサーから得られる情報の結果、ビジネスジャッジができるようなシステムを作っていきたというところからスタートしたんです。

2.創業しようと決めたきっかけは何ですか?

純粋に新しい価値をこの世界に生み出したい…自分にはそれができると信じて

園田

この質問には、2つの答えがありますね。

「創業のきっかけは」と問われると、一つは、まだ世界にないものを生み出して、それをビジネスにするという挑戦したい、純粋に新しい価値をこの世界に生み出したい、自分にはそれができるという思いに駆られてということになります。

園田

1998年頃から開発していた検索エンジンを使って、音声を認識して曲の名前を当てるというサービスで創業しました。当時はどこにも存在しなかったサービスです。

― スタートアップという言葉すらなかった時代ですが…まさにスタートアップ! 

園田

そうですね。当時は、ベンチャーと言っていましたね。意識していたのは、ビルゲイツや、Linuxの開発者のリーナス。彼らのようなコンピューター業界で世界にインパクトを与えた学生たちが少し先輩として存在した。何でしょうね…世界にITの大波がやって来た、その時代に自分もコンピューターサイエンスの世界に身を置いていた。そういうことで自分にもできるという気持ちが強くなっていた。今のスタートアップの人たちも似たような気持ちかもしれませんね。

― 世の中が技術によって変わる、その大きな変化の中で技術者として大志をいだいた…

園田

いえいえいえ、ただワクワクしていただけの人でした(笑)

― 当時、そういう方は周りに多かったのでしょうか?

園田

いえ、全然。そんな人が沢山いたら、世界はもっと違うものになっていますよ。そういう人は数百人に1人くらいでしょうか。

例えば今、私は大学で教えている学生たちと一緒に仕事をしていて「自分の会社持っています」とか「ベンチャー企業を立ちあげました」という学生が毎年のように現れますが、だいたい卒業したら辞めてしまう。

大学に籍がある間に、ちょっと挑戦したいと思っている人はいる。でも継続する人は本当に少ない。

今は、いろいろなことに挑戦できる時代です。 それには投資家の存在が大きい。例えば、ゲームやアプリの開発で成功して上場したというようなスタートアップを自ら経験して大金持ちになった「お兄さん的な人」が結構いるんですよ。その人たちがエンジェル投資家としてスタートアップのシード期を支えるという土壌がやっと東京にできてきた。この10年くらいで時代は大きく変わり、状況は良くなったと思います。 ただそれでも挑戦する人の数、母数はあまり変わっていないように見えます。

世界初の歌声による曲検索システム

― もう一つの答えとして、 具体的な創業について

園田

在学中に、歌声から楽曲を探し出す、歌声による曲検索システムを開発して特許を取得。学生起業家として早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程在学中に、うたごえ有限会社を設立して「歌声検索」をサービス化しました。

― 創業時から機械学習の技術を?

園田

正確には機械学習というジャンルではないんですが、現在の機械学習・AI技術といわれているものも、私が最初に歌声の認識で使っていた技術も、ニューラルネットワークというものを使っているという点で根本は同じです。

ニューラルネットワーク自体は、1943年くらいからある考え方です。ただ当時はコンピューターもなく理論上存在していただけ。1960年代に、コンピューターが登場して、その考え方が少しずつ検証されていった。その後、2009年くらいにGPUというグラフィック計算のプロセッサーが出てきたことによって、何十年も昔の理論がやっと使えるようになり、機械学習とかAI技術と言われるジャンルが発展することになるんです。徐々に環境が整ってきたということですね。

― そういう歴史の中で音に着目された?

園田

画像は横方向と縦方向の二次元データが必要です。音は一次元なので、画像よりもシンプルで計算量が少ない。だから、その当時の技術の可能性から落としどころとして音声の認識をスタート地点とした。その後、音声認識から音声通信、映像通信へと…会社の社歴が長いものですから、色々な変遷があって今に至ります。

3.CASE Shinjukuを事業拠点にしようと思ったのはなぜですか?

描いていた隠れ家感がここに

園田

これは、とてもいい質問ですね。初めて来た時に、直感的に「ここしかない」と思ったんです(笑)

直感的に決めたので理由は後付けですが…、一番大切にしたかったことは「世界にないものを作る」という、スタートアップの醍醐味なんです。そのためには優秀な人たち、ワクワクするような人たち、一緒に働いていて楽しくなるような人たちが集まってくることが大事です。そういう人たちが、まだ世に発表していないものを密かに作っているという状況にワクワクするんです。「密かにいいことを企んでいる優秀な集団を作りたい」、潜在的にそういう思いがあった。

そう考えたときに、この雑居ビルの入口の雰囲気と、4階に上がってきた時のギャップがいいんです。古い雑居ビルのエレベーターの扉が4階で開いた瞬間に現れるコワーキングスペース。これがまさに描いていた隠れ家感とマッチするんです。「ここしかない」と思いました。即決でした。それがおそらくこのCASE Shinjukuを即決した理由だと後で解析しました。

― まさにそのように使ってもらいたいと思っていましたし、なぜか駅前なのに隠れ家的…。
ただ、たくさん人がいればいいのではなく「何かが生まれる場所」でありたい。
思いを共有する方がいてくださることが、この上もなくうれしいです…

園田

一方で、COVID‑19の影響で、オフラインで会う必要がないことも分かってきました。先日、CASEでご紹介した早稲田大学の学生は、直接会うことなく採用を決めました。 たまたま駅近で便利で、 大学が近いから立ち寄ってもらった。それ以降も会うことなく一緒に仕事をしています。

一方で、ロボットやドローンのような事業を具体的にやるという時に、コワーキングスペースでいろいろなことができるようになれば嬉しいなと思っています。

― その時は、是非お声掛けください。営業時間外は、ある程度自由に使っていただけると思います

4. 今後の事業展開、ビジョンについて

人類がどう生き延びるか…次世代のために

園田

企業がやるべきことは、次の世代に向けたことだと思っています。人類がどう生き延びるかということだけだと思っています。そこに2つ選択肢があります。宇宙に逃げるか地球を長生きさせるかのどちらかです。

そのうちの一つが、今ウタゴエでやろうとしているCO2削減のための自動運転・効率化です。そこに現代の技術を生かせるかというテーマが一つある。

もう一つは、宇宙開拓です。これは少し前の世代から取り組まれていますが、万が一、地球に居住できなくなった時に、宇宙ステーションや他の惑星に移住することを考えて、今の人類が準備をしておくことで、次の世代の大学生たちは例えば「来週、火星で動かすロボットのピッチをしてくるよ」という会話ができる。今の世代の人たちが誰でも簡単に火星にいけるようにしておく。そういう事業を作っていきたい。そういうことが、今の私たち大人世代の責任…、とまでは言わないですが、一番価値の高いことだと思っています。

― 誰にでもできることじゃないかもしれない、でも、できる人がやらなければならないこと

園田

そうですね。実際、今みんなが「宇宙」「宇宙」と言っているのも、いよいよ温暖化が深刻になってきたからだと思うんです。少し前までは、宇宙開発にはお金が掛かるし、地球で生きていきたいと思っていた。

けれど今、ふと世界を見渡すと、雨が降らない地域や、水が手に入らない人たちが増えている。慌てて、SDGSを掲げてみても、それだけではどうにもならない。CO2削減のためのエコロジー・ミッションの達成もかなり厳しいと思っています。コンビニに行って食品をビニールで包んでいない食品はないですよね。食品がある限りビニールは減らない。

そこを食い止めるシステム作りを今の世代ができたらいいなとできたらいいなではなく、うちの会社がしようと。 人類が生き延びるために役立つところに事業を向かわせたい今の世代の人たちが、いろいろなことにチャレンジすれば、少しでも未来の役に立つと思っています。

CASE Shinjuku の個室オフィスにて

5. 趣味・特技・自慢話

― 趣味や特技、ちょっとした自慢話などが、人と人がつながるコネクターになったり、趣味や特技が誰かの役に立ったり、仕事につながったりということがどうもあるような…という主旨で趣味、特技、自慢話をお伺いすることにしています

全ての持ち物をなるべく小さくする、PC環境は消費電力30ワット

園田

今、モノを小さくすることに凝っています。持ち物をなるべく小さくする。ちっちゃな鞄で出張にも行っているんですよ。PCや着替えなど必要なものは全部入れて。全ての持ち物の重さを、グラム単位で全部把握しています。そうやって持ち物をめちゃくちゃ小さくすることにはまっています。

園田

PCも、昨年、 Jetson Nanoというすごい小っちゃくてパワフルな機械学習ができるマシーンが出たので、iPad miniをディスプレイにして小さなキーボードを付けて使っています。これがめちゃめちゃ軽いんですよ。しかも、バラバラにして小さな鞄に入れて運べる。どこでも機械学習の仕事が出来ます。プログラミングもできます。オフィスで機械学習に使っているPCの消費電力は90W、一方、この構成では30W。電気量も半分以下です。移動に掛かるエネルギーも低い。

移動にエネルギーを使わないということも含めて、電力を使わないというコンセプト、それが趣味と言えば一つの趣味ですね。

将棋は論理的思考のバロメーター

園田

もう一つは、将棋。将棋は小学校の時から続けていて、今も毎日のように指しています。最近は持ち時間が1人2分で4分で勝負がつくオンライン将棋が多いですね。これは人類にとって何のプラスにもならない時間なので最小限にしていますけども(笑)

負ける時って、負け続けるんです。そういう時は論理的思考ができていないんです。だからそういう時は何も考えないようにする。将棋はそのバロメーターなんです。

本当は、相手の駒が見えない状態で将棋を指す「ついたて将棋」が好きなんです。戦っている者同士は、相手の姿が見えない。普通の将棋と同じように王様を詰んだら勝ちという将棋です。この対局には想像力が必要ですし、相手が何手でここまで駒を動かしたか頭の中のマップ作る作業が面白くて。全国で20位以内に入ったこともあるんですよ。今はそればかりやっていては事業が進まないので強制的に辞めていますけど。

中学生の時から数年前までテニスをやっていましたね。でも最近はテニスはコートを取る時間ももったいないと思うようになったり、そもそも一緒にやってくれる相手がいなくなったりでやらなくなりました。

6. メンバーの皆さんへの呼び掛け

「今、困っていることは何ですか?」と聞くのが癖、決して怪しい人ではありません

園田

僕は皆さんに「今、困っていることは何ですか?」って聞くのが癖で…。これからも「困っていることは何ですか?」と聞くと思いますが、決して怪しい人ではありませんので、お困りごとがあったら聞かせてください。解決できることがあれば事業として解決したいです。

そして、Jetson Nanoのヘッドレス接続+iPad mini 6のディスプレイ化をお勧めしたい。これは、めちゃくちゃ仕事がしやすいですよ…CASE Shinjuku おすすめ構成です。

― 園田さん。ありがとうございました。



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