シェアオフィス&コワーキングスペース CASE Shinjuku のメンバーさんやパートナーさんのご紹介と合わせてこの機会にCASE Shinjukuについていろいろ聞いてみるというCASE Interviewです。8回目の今回は、CASE Shinjukuで毎週金曜日に開催されるプログラミング言語PHPの勉強会YYPHP(ワイワイピーエッチピー)のファシリテーターを務めていらっしゃる株式会社クラフトマンソフトウエアCTOの野澤秀仁(suin)さんにお話をうかがいました。
野澤秀仁(suin)さん プロフィール
【氏名】野澤 秀仁 さん
【社名・役職】
株式会社クラフトマンソフトウエア 取締役&プログラマ
【略歴】
14歳から独学でプログラミングを始める。 業務システムの受託開発を担当する中で、ソフトの品質に悩む現場を経験にする。 25歳でフリーのエンジニアとして独立。 その後、2012年に森(reoring)と知り合い「この業界、テストをどうにかしないといけない!」と意気投合。 ShouldBeeの開発に着手。
エンジニア向けスキル評価サービスCodeIQの出題者とテックライターや、書籍『実践ドメイン駆動設計』ではレビュアを努め、プログラマ向けナレッジ共有メディアQiitaにおいては23,000 Contributionを超える現役のプログラマ。
雑談型の勉強会「YYPHP」
YYPHPとは、プログラミング言語PHPが好きなプログラマのための勉強会です。勉強会と言っても、そのやりかたは一風変わっています。普通の勉強会にありがちな講師や発表、学習テーマといったものがYYPHPにはありません。
代わりに、その会に集まったプログラマに「今日雑談したいことは何?」「聞きたいことは?」と聞いてまわって、それを出発点に雑談形式の情報交換を始めます。話しているうちに、別の話題に話が広がっていったり、一緒に調べたり、ときには参加者が作ったプログラムのコードをお互いに評価(コードレビュー)することもあります。
YYPHPは終始、参加者主導の会です。意見も質問も自由に飛び交います。なので参加者にとっては、単に「新しいことを知って得した」で終わらず、雑談を通じて共通の話題を持つ「プログラマ仲間」に出会える絶好の場になっています。
YYPHPは2017年8月より、CASE Shinjukuを会場に毎週開催。定員10名。参加費は無料。参加申込みは以下より随時。
Interview
自社サービス「ShouldBee」から学んだこと
クラフトマンソフトウエアは、2013年10月にCEOの森玲峰と僕と二人で始めた会社です。OpenNetworkLabのシードアクセラレーションプログラムに参加して、2014年の第8期デモデイでベストチームアワードをに選んでいただいたりもしました。当時は「ShouldBee」というテスト自動化のサービスでスタートアップとしてスケールすると信じていました。
ー 当然のように「ビュン!」と成長すると思ってたんですね?
それはもう! でもそんな簡単なことじゃないですね。1発でスケールする人はよほどの天才か強運の持ち主。僕らのような凡人がやれることは、何度も何度もいろいろなアイデアを試してみること。仮に、100プロダクト中、1プロダクトが当たるとすると、1年間で33プロダクト回せたら3年以内に成功するじゃないですか。
でも1年に1プロダクトしか回せなかったら100年かかるという計算です。事業領域すら変えることもありだろうし、事業領域は変えず攻める角度を変える、ピボットすることもある。どれだけ早く失敗を繰り返せるか。そしてそのことで学びを増やしていく。このアイデア、このプロダクト、ダメなら次へ次へ、ドンドン回していくことが大事。とにかくめっちゃ学びました。
1年前に大きな方向転換をしてゼロベースで仕切り直そうと決めました。理由は単純で思ったように顧客が獲得できなかったからです。「ShouldBee」で得た失敗や経験を生かして、今は別のプロダクトを立ち上げようとしています。
ー 「ShouldBee」は完全撤退ですか?
無料サービスとして継続して提供しています。またエンタープライズ向けには個別に対応しています。「ShouldBee」の有料プランでマネタイズしていくことをやめたんです。
経験から学んだことはシンプルなものを尖らせて特化すること。それが弱者の戦略なんだということ。僕らがGoogleやAppleのやり方を真似ても成功はしない。「ShouldBee」から得た知見を生かす。今はそういうステージです。
ー 3年半で方向転換したわけですね
はい。キャッシュが尽きるとスタートアップは死ぬんですよ。だから2017年4月1日に「一年後は半月の稼働で必要なキャッシュを得て、残り半月でプロダクト開発ができるようにする」という目標を立てました。ちょうど一年でその目標に近づいてきました。一年を費やして受託開発の売上げで足下の資金を確保し、それで得た利益をプロダクト開発に投資していく体制をつくってきたんです。
ー これまで投資も受けていますよね。1年前にその選択をしなかったのは何故ですか?
投資を受ける道もなくはないんですよ。投資家は常に投資先を探しているので、自分達がその選択をして投資家に声をかければ資金調達もできると思います。でもタイミングが大事なんです。投資を受ける以上、事業の拡大路線が明確でなければならない。
例えば、マーケティングや営業に100万円を費やしたら100社の顧客獲得ができましたという実績を持って、100万円の予算の10倍を費やせば1000社、100倍なら1万社と事業を拡大できますというようなスケールする路線ができた段階までいけたところで資金調達をしたいと。そこがクリアにならない間は調達は控える。今は地道にやっていくことを選んだんです。
ー 今、どんなチーム構成ですか?
エンジニアは4人、事務の人が1人いて社員としては5人です。外部も含めると一緒に動いているチームは20名くらいです。
エンジニアとの出会いの場「YYPHP」
受託開発のほうが思いのほか順調に拡大していて、逆に今はエンジニア不足が課題のひとつになっています。採用活動は2017年の8月頃から開始しました。
いざエンジニアを探そうと思ったら、まわりに誘えるエンジニアがすごく少ないことに気が付きました。自分がエンジニアなのにです。
それで外部のエンジニアとの接触をつくりたいと思って始めたことが二つあります。
まず始めたのが「suinのプログラミング相談室」です。僕がチャットでコードに関する相談に乗りますというサイトです。2017年の5月から始めて今までに100~200は回答しています。もう一つが「YYPHP」です。
ー よい出会いがありましたか?
まだ社員採用まで至ってはいませんが、フリーランスで仕事をお願いしたりということは起きています。ゆくゆくはそこから社員となる人がでてきてくれたらいいと思っていますが、今は人脈づくりを大事に考えています。採用は1年2年というスパンで考えています。
「YYPHP」はリピーターが増えています。自分のやり方が正しいのか、これはどうやるんだろうかということを社外の人と情報交換できたり他の人の意見が聞ける。エンジニア同士のつながりが持てることは参加者にとっても意義深いんだと思います。スクリーンにコードを映してレビューをすると「あ、そういう書き方があるんだ」という気づきがある。
例えば社内でもコードレビューはやっているかもしれませんが、組織には組織の文化があるので新しいレビューは出てきにくい。いろいろな人がいることが刺激になる。参加者の方からも技術的な学びが得られるところがいいと言っていただいています。
ー 「分からない」「できない」ことは調べられるけど、なんとか自分のやり方でできていることは、それ以上深掘りしないで、そのやり方を通してしまいますね。でもそのレビューによって自分では問題意識を持っていなかったことが改善されたり、技術や情報がシェアされるということですね。
そうです。始めて半年になりますから30回以上開催しました。最初は一人でも来てくれればいいなと思って始めましたが、今は定員を超える日もあります。やっぱりチリツモなんですよ。地道にやっています。ただ雑談的な雰囲気を大事にしたいので多くなっても10人くらいが限界かなと。
やっぱり継続することが重要で、地道に大きくしていくしかないですね。飛行機もランディングが一番大変なのと同じで、一度テイクオフできれば飛んで行ける。そこまで行くのが大変なんだと。CASEを運営されていてもそうじゃないですか?
ー そうですね。最初は重圧がかかってものすごく重たいし進まないですよね。動き始めてからテイクオフの直前までの感じね。
もっとめっちゃ人が集まるようになったら、CASEさんで懇親会をやりたいです!
ー ぜひぜひ! CASEは懇親会向きです(^^)
「YYPHP」を開催する上でCASE が最高である理由
ー CASEでYYPHPを開催する理由は何ですか?
理由は3つあります。一つは、立地の良さです。IT系の企業の集積がある渋谷や新宿から近い。しかもCASEは高田馬場駅前で都内のどこからもアクセスがいい。
二つ目は、会場の居心地の良さを与えてくれる内装です。「YYPHP」はエンジニア同士のラフな交流の場です。だから会議室ぽい感じやセミナールームっぽい感じの場所ではなくて、オープンな雰囲気でやりたかった。身構えなくていい雰囲気の会場と言ったらCASEさんじゃないですか。
三つ目の理由は、IT系の勉強会をやる上で必要なものがすべて揃っているところです。プロジェクターにホワイトボード、WiFi、電源はもちろん、テーブルレイアウトの自由さがあり、会場入口に張り出すイベント名のポップに至ってはCASEさんがキレイにラミネートしたものを用意してくれます。
この3つが、開催する上でCASE が最高である理由です。YYPHPには「未来の社員と接点を作る」という重要なミッションがあるので、会場選びとしてはどれも妥協できないものです。そして、こんな好条件が揃った会場はCASEの他にないとも思います。
もちろん、僕やCEOの森怜峰が、ミタカフェを拠点にしていた頃からお世話になっていることみさんが運営されているということも大きいですよ!
ー うわ!ありがとうございます。こちらこそお世話になっています。
チームが求めているのはどんなエンジニアさんですか?
サーバーサイドのエンジニアとフロントエンドのエンジニア、それにインフラをやりたい人も来てほしいです。勿論、ある程度の技術的なスキルのある人を求めていますが、技術的なスキルとは別にカルチャーという問題もありますからね。
それぞれの企業独自の働き方がある。当社なら例えば「失敗しても人を責めないで今後どうするかを考え、仕組みでカバーする」「できるだけ知識は文字に起こして共有する」「暗黙知を減らす」などです。何を大事にするかということですね。そこが似通っていないとどんなに技術的にスキルの高い人でもやりづらいですよね。
ー 「ビジョン」や「ミッション」を明確に言語化して公開して、それに「共感しました!」と言って来てくれた人がいたとして、一緒に仕事をしてみると「本当にいいと思ったのかな?」と思うようなことも起こりますよね。ズレを感じる。そこは一緒に働いてみるしかない。お互いのためにね。
カルチャーが似通っている人だったら一緒にいい仕事ができると思います。ただ採用の段階でそこまで知ることはできないですからね。入ってもらってお試しでいてもらう期間も必要だと思っています。
ビジョンについては以前、経営者三人で決めようとしたことがあります。起業のスタートラインとして「ソフトウェア開発とそれを取り巻く環境を最高にしてみんなをハッピーにしたい」ところは経営者三人で共有できているので、ビジョンを決めることは簡単だと思いました。
しかし、結論として、ビジョンを明確にすることはできませんでした。注力すべきプロダクトが見つかっていないというのが大きかったと思います。ビジョンは決めるものではなく、発生するもので、しかも変化するものだという気づきました。
今はあえてビジョンを決めず、新しい人が入ってカルチャーやビジョンが変わるという可能性も大事にしたいと考えています。メンバーが増えたり変わったりすれば変わるものだと思うし。また自分たちが違う経験をすれば、また変わるものだと。だから今の段階でビジョンを決めきってしまうこと。
今はその都度、メンバー間ですり合わせるやり方がいいなと。ただ今、働いている場所が分散していて、全員集まれるのが週に1回か2回くらいなので、会った時に雑談とかしてお互いの学びを同期し合うという感じでやっています。
ー いい会社じゃないですか。
いい会社になりたいですね。
ブランディング=情報発信で透明性を高める
ー エンジニアとの関係性を作ることでYYPHPの次にやりたいことは何かありますか?
今の課題は、会社のブランディングができていないことです。外からみて透明性がないに等しい。例えばCEOの森の思いや考えを上手に表に出せていない。そのためにいろいろなところでロイヤリティとかレバレッジが効かない。
例えば採用のとき、景気やエンジニアの需要と供給のバランスとかいろいろなパラメーターがありますよね。その係数の一つにブランディングが入っていて、そのレートは高く、最終的な採用スコアに大きな影響を与える。
ブランディングには時間がかかるので地道にやっていきます。ただ僕が考えているのは透明性を高めるということだけなんですけどね。自分たちがやっていることを包み隠さず発信することでブランディングをしていきたいと。
うまくいっている例として、SNSの予約投稿サービスを提供するBufferという会社があります。そこは社員の給与まで公開しています。透明性を高めることで採用だけでなくマーケティングもできています。顧客ともいい関係が築けています。
以前、DoS攻撃を受けてサービスがダウンしたことがありました。普通は大クレームになるところです。でもユーザーから「頑張ってください」というような応援のコメントがブログに寄せられれるという心温まることがありました。信頼関係があったからこそですね。そうなってくるといろいろなことが好転すると思っています。
今、コーポレートサイトをリニューアル中です。弊社は「技術力が高い」ことを差別化要因として仕事や採用を行っています。知っている人たちはそう思ってくれている。でもそれではダメですよね。WEBサイトがショボイと「本当にこの会社に技術力があるのか」と思われますから…。「技術力があることをサイトデザインでちゃんと示さねば!」と思っています。
CASE Shinjukuさんはブログ、頑張って書いているじゃないですか。
ー ありがとうございます。ヨチヨチ歩きでなんとか更新しているという感じですけどね。でも
僕たちはそれすらできていませんからね。
最後に
ー 初めてsuinさんに会った時は「優秀な若手エンジニア」という印象が強かったのですが、今日はスタートアップとしていろいろな経験をつまれたsuinさんから、経営者の視点で大切なお話がたくさんうかがうことができました。ご自身で、 プログラムを書くことだけを仕事にしていた時と自分が変わった気がしますか?
最近では半分以上は経営とかブランディングとか採用とか、そういうことを考えています。向いているとは思ってなくて、ただ必要だからやっているんですけどね。でも自分一人じゃないですから。森や竹原、外部の方々にも助けてもらったり支えてもらったりしています。「YYPHP」もCASE Shinjukuがなかったら30回も続かなかったかかもしれないです(笑)
ー スタートアップという選択をしてよかったと思いますか?
その言葉は、あとに残しておきます。自社プロダクトを成功させてから言いたいですね。
ー その言葉が聞ける日を楽しみにしていますね! 今日は貴重な話を本当にありがとうございました。